風に恋して
頭が痛い。

食欲なんてない。食べたいと思ったのはリアじゃない。

大好きなクリームシチューも、シェフの作る口の中でふんわり蕩けるスフレもいらない。

リアは弱々しく笑った。

そうだ、このシェフは自分の好みを把握していて、いつも……リアがねだれば何でも作ってくれた。

「お食事が喉を通らないのでしたら、お飲み物にいたしましょう?ね、リア様」

カタリナがリアをなだめるように言う。

「ミルクティーがよろしいですか?それとも、ピーチやストロベリーのフレーバーティーが……」
「いらないと言ってるの!」

リアは更に大きな声を出した。

(どうして……)

自分の好みを把握している城の者たち。ここで生活をしているリアは、自分の知らない“リア。”

“リア”が食べたいと思うものは食べたくない。どうして“リア”の好みとリアの好みは同じなのだろう。

(誰なの?)

一体、リアの他に誰が“リア”であるのだ?

あぁ、もう……頭の中がぐちゃぐちゃで、わからない。

偽りの気持ちと、わからない本当の気持ち。エンツォを好きな自分と、レオを受け入れた自分。

(誰、なの?)
< 85 / 344 >

この作品をシェア

pagetop