君と恋色*tear rain
*1*
「静かにしろー。今日は、転入生を紹介する。」
40代くらいの男の先生に続き、教室に足を踏み入れる。
私が教室に入った途端、少し前まで廊下にまで聞こえていたざわめきは消滅し、教室内はしんと静まり返った。
さっきまで希望に満ち溢れていた私のエネルギーは、緊張と不安により呆気なく何処かへ消え去ってしまっていた。
ドクドクと心臓が激しく脈を打つ。
人前に立つのが凄く苦手な私にとって、転校初日の自己紹介は何度も経験した今でも、耐え難い苦痛だった。
それに昔住んでいたといっても、私は関西弁を話すことが出来ない。
あちこちを転々とする内に、標準語が身に付いてしまっていた。
標準語を変に思われないだろうか。からかわれたり、しないだろうか。
そんな事を考えていると、先生が小声で私を促した。
「ほら、自己紹介して」
『えと、**から転校して来た、花井奈々(はないなな)といいます。……よろしく、お願いします』
何とか言い切った。