もの書き。
7話
9月23日(日曜日)
今日は彼のバンド主催のイベントがあった

私は、はやく行きすぎて

誰よりも早くライブハウスに入った

差し入れに手作りのケーキを彼に渡した

何て言っていいかわからず

ケーキの入った紙袋を

下を向きながら渡した。

それを察した彼は

「ありがとう、これみんなで食べてもいい?」

と優しく言ってくれた

可愛い顔とは真逆の低くて暖かい声である

私はあわててうなずいた


9月24日
私は今までの日記に

″彼と話した″

と書いてきた

話したというのは妄想にすぎないかもしれない

私は人と話すことができない

耳は聞こえるし

声だってちゃんとでるから歌う事ができる

だけど

いざ会話をしようとすると

何をどこからどう話せばいいか分からなくなる

だから声には出さない。

いつもペンと紙をもち歩き

伝えたい事があれば

そこに書いて人にみせる。いわゆる筆談だ。

一度、紙に書き失言だと思えば消すことができる

言ってしまえば消すことはできない

ただタイミングがずれれば無視されることも

しばしばある

それにしてもはじめてだ

こんなにも自分の口で人と話したい

と思ったのは。

今度会った時は声に出してみようと思う
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