囚われの華
「えっ!?お母様、どうしたの?」

普段、母からこんな焦った電話がかかることはまずない。

本来なら就業中は自身の携帯電話は電源offにしてバッグに入れている遥がこの日に限って忘れていて。


突然流れた着信音に周りにいた従業員の目が遥に向く。

「すみません。少し席を外します。」

周りに謝ってから廊下に出て電話をつなぐと母の言葉に更に驚いた。

一体何があったというのだろうか?

「帰ってきてと言われてもすぐには無理です。お母様。

まだ就業中ですもの。

終わり次第戻るのでは駄目なの?」

母の取り乱した様子に驚きながらもそういうと、

「こちらの事情は彩人さんもご存じよ。

すぐに、すぐに戻ってきなさい。分かりましたね。」

そういって母は一方的に電話を切った。

彩人さんとは、父の旧友でこの水島銀行グループ頭取である。

大学卒業後、両親は私を働かせずに家にて嫁入り修行させようと思っていたらしい。

が、私は働いてみたかった。

多くの人と同じように自分で働いてお金を稼ぎ、出来るだけ生計を自分でたてたいと思っていた。

生粋のお嬢様として何不自由なく過ごすのではなく、普通の人と同じ感覚を持ちたかった。

普段両親に逆らうことのない私が初めて逆らったので両親は驚き、怒り、なだめようとした。

が、私の粘りについに妥協案をだしたのである。

就職は許すが、就職先は親が見つけると。

そして就職したのがここ、水島銀行本店であった。

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