囚われの華
何が何だかわからないまま自分の席に戻ろうとドアを開けると同じ広報部で働く同僚の目が向いた。

いたたまれない中、席に着いた遥に隣の席に座る二年先輩の三井響子が話かけてくる。

「どうしたの?何かあった?」

心配そうに聞いてくる響子は遥の教育係でもあり、日頃から何かとお世話になっている先輩で。

「それが分からないんです。帰ってこいとしか言われなくて。

申し訳ないのですが、早退させていただいてもいいですか?何か緊急事態が起こったようなので。」

今日やらねばならない仕事が残っていて気にならないではないが、実家の方も気になる。

まだ、期限に余裕はあるので今日中に仕上げなければならないという急ぎのものは幸か不幸かなかった。

響子先輩は

「大丈夫よ。急ぎのものはないし。それに、あなたがフロアーから出た後で部長に電話があったみたい。

相手は頭取だからあなたのことかもしれないわね。

部長の電話が終わったらお願いして帰ったらいいわ。」

快くそういってくれた響子先輩に

「ありがとうございます。」

と言って、部長室に向かう遥の後ろ姿を心配そうに三井響子は見詰めるのだった。

同じフロアーの中で仕切られた部長室のドアの前に立ち、遥はふぅーっと息を吐く。

トントンとノックすると

「入れ。」

とだけ返事があったので

「失礼します。」
と中に入る。
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