囚われの華
「では、来週までに今日伝えたところを重点的に復習しておいてください。
お疲れさまでした。」

屋敷に毎週一度バイオリンを教えに来る講師からそういわれて

「ありがとうございました。」

と伝える。

先日のことで心の中がぐしゃぐしゃで、何を考えたらいいのか、どうすればいいのかと考え過ぎてしまって辛かったが、今のバイオリンの時間は何もかも忘れて集中できた。

やっぱりバイオリンは好きだな。

愛用のバイオリンを抱きしめてそう思ってた遥のもとに執事がやってくる。

「遥さま、水島様がお越しです。30分ほど前からお待ちになっておられます。」

その言葉に体が固まる。

「えっ!?」

どうして彼がくるのだろう?

どうして放っておいてくれないんだろう?

しばらく会いたくはないのに。

「そう…会います。もうしばらくお待ちくださいとお伝えして。」

そう告げて部屋に戻ると気合を入れると言うか、勇気をもらうようにりっぷを塗った。

「逃げたら駄目よ。遥。」

そう呟いて息を吐き出し、自室から出る。

「お待たせしました。どのようなご用でお越しですか?」

緊張しながら蓮の待つ部屋に入り、声をかける。

その言葉に蓮は目を見開いていた。

どこか他人行儀な言葉。

今までとは明らかに違っていた。

「昨日のことで…」

そういうと遥は明らかに動揺した表情をしたが、すぐに冷静な表情になる。

「昨日の?何か問題などありましたか?

お聞きするようなこと、ないと思いますが…」

その言葉に蓮は

「どうしてそんな他人行儀な言葉をいうんだい?

今までの遥ちゃんはそんな言葉言わなかった。」

どこか焦ったようにそう言って…

「何がですの?私は変わってなどいませんわ。

蓮さんこそどうされたんです?

お聞きすることもないのでお引き取り下さい。」

と蓮の話したいことを話させようとはせずに追い払おうとしている。

が、このまま帰る気は毛頭あるわけない。

「聞きたくないかもしれないけど、聞いてもらうよ。

ただしここじゃない。誰の耳があるか分からないからね。

庭で話そう。」

そういって遥の腕をつかんで庭に向かった。


< 32 / 41 >

この作品をシェア

pagetop