跡目の花嫁さん~家元若旦那の極上のキス~
「素敵?」



「うん」



「俺、そんな風には思ってなかった。好きな事はさせてもらえないし、犠牲にしたモノの方が多い…」



緑川さんの視線が急に宙を彷徨い、どこか別の場所を見つめていた。



「緑川さん?」


私に名前を呼ばれ、緑川さんはハッと肩を震わせて、私を見た。



「ゴメン…少しボーッとしていた」



緑川さんは瞼を閉じた。

瞳を縁取る睫毛は長く美しい曲線を見せている。


瞼を開けた彼の瞳は穏やかで優しい色。


春の柔らかな陽射しを私に想像させた。


< 38 / 203 >

この作品をシェア

pagetop