純潔の姫と真紅の騎士

暗い暗い黒い部屋の中、白い服を着た白い長い髪の少女が宵闇より暗い黒い水晶の前に座っていた。

その水晶を人々は求めて手を伸ばす。

黒い水晶を人々は黒水晶と呼んだ。

それを拝めた。

しかし、黒水晶は人々が思っていたように幸せなど運ばないということを少女は知っていた。

世界を破滅させる力を持っているだけなのだ。

世界はこの黒水晶により踊らされている。

黒水晶の中には靄が広がっていた。

その靄がいびつに歪み、形を作る。

まるで、自分の心を表しているようで嫌になる。

「……何かありましたか?」

目にグルグルと包帯を巻いた顔が黒水晶を小さくのぞき込む。

見えていないはずなのに、見えているような仕草だ。

ふいに地響きのような低い声が彼女の頭の中に響いた。

「少しばかりな。ジャルーヌがいらんことをしてきた」

「……砂漠の国ですか?」

「あぁ。あの<聖剣士六士>めんどくさいな」

「……強い方です」

「ふむ。確かに強いといえば強いが、こちらの”気 ”に気持ち悪いと言っていてはまだまだだ」

「……ダーク様は強いですから」

「スイレン。今日も儂と世界を見てくれるか?」

「……ダーク様が望むならいつでも」

「そうか。では、どこからみようか」

「……ダーク様が望むならどこでも」

スイレン、スイレンと黒水晶は連呼した。

スイレン、そう呼ばれた彼女は黒水晶に魅入られた黒水晶の餌食である少女。

産まれた瞬間から黒水晶に魅入られ、彼女は黒水晶だけのものとなった。

黒水晶が機嫌を損ねないよう、お世辞の言葉を投げる。

黒水晶と共に過ごす。

そのために地下奥深くに黒水晶とともに監禁された。

彼女にとっての世界は、この地下だけだった。

黒水晶から見える世界は、自分の手の届かない場所だと感じていた。

スイレンが黒水晶の中を除こうとしたとき、扉が開かれた。

真っ暗闇では扉が開いても光もなにも入ってこない。

なにしろ、この闇は黒水晶のダークの闇の靄なのだ。

靄に触れるとネットリとへばりつき、気の弱い者だと失神してしまうこともあるのだ。

「スイレン様。昼食をお持ちいたしました」

スイレンにはたった一人だけ側近がいた。

アリウムという歳の近い側近だ。

彼女の姿を見たいと思ったことがある。

しかし、それは叶わない。

叶うことは一生ない。

「アリウムさん、ありがとうございます。今日は少し靄が広がってますから、気をつけてください。入り口まではいかないかもしれませんが、少し危険です」

スイレンの小さな声でも響くほど家具もなにもない大きな部屋にスイレンはいた。

「はい。お気遣いありがとうございます。では、また昼食が食べ終わったらベルを鳴らしてください。お盆を片づけにきますから」

「はい。ありがとうございます」

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