純潔の姫と真紅の騎士
「シノ~、誰かが泣いてるよぉ。女の子の声だぁ。気持ち悪いって、悲しいって、憎いって、愛しいって、泣いてるよぉ」

シノはお風呂から出た後の濡れた髪を拭きながら、アネモネの前に座った。

「……泣いているのは誰だ?」

アネモネはウサギの人形をギュッと抱きしめた。

「ん~、分からないなぁ。でもねぇ、黒い靄と同じくらい気持ち悪いところにいるよぉ。ううん、それ以上気持ち悪いなぁ。もしかしてさぁ、スイレンって子の声なのかなぁ。すご~く、悲しい声をしてるねぇ」

シノはどうにもできないことを確認し、アネモネの耳を塞いだ。

「……その子は今どうにもすることができないんだ。アネモネ。それに、その子を助けるのはおそらくカイだろう。……だから、それまで耳は塞いでおこう。アネモネ。悲しい声が聞こえないように」

アネモネは耳を抑えられた無骨な大きな手に、自分の小さな手を添えた。

「でもねぇ、助けてって聞こえるから、それに答えることはしないといけないよねぇ。じゃないとさぁ、スイレンって子は独りになっちゃうからぁ」

シノはアネモネの言葉に微苦笑を浮かべた。

「……アネモネは優しいな」
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