純潔の姫と真紅の騎士
「最近、なんだか悲しそうね、アリウム」

上から降ってきた声にアリウムは一瞬だけ肩をビクッと動かした。

アリウムはおそるおそる上を見上げる。

その視線の先には、リンドウがアリウムに足を投げ出してアリウムを睨むように見ていた。

「そ、そうですか……？」

アリウムはサッと視線を下げて、リンドウの足の爪を磨くことに集中した。

何を言われても冷静でいられるように。

「えぇ。アレに食事を持っていくとき、今までは少し暗い顔をして、それでも元気そうに持って行っていたのに。どうしたの？昨日は本当に嫌そうに食事を持っていっていたわ」

「……リンドウ様、恐れながらスイレン様はアレではありません」

リンドウがクスリと笑って、爪を磨いていたアリウムの顎を細い指でつまんだ。

「あんな汚い娘、アレで充分よ。アレに食事を持っていくのももったいないくらいですもの」

アリウムは、あんたの食事代のほうがもったいないわよ！という言葉を飲み込んで、顎を指からはねのけた。

「……昨日は少し体調が悪かっただけです」

「あら、そう？てっきりアレにとうとう愛想ついちゃったのかと思ったわ。まぁ、そうだったらもうご飯なんて持って行かなくてもいいのだけれど」

ガバッとアリウムが立ち上がった。

「リンドウ様。爪の手入れは終わりました。下がらせていただきます。スイレン様の昼食がありますので」

リンドウは少し唇を尖らせたが、さっと手を振った。

「いいわ。お下がりなさい」

「失礼いたしました」

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