純潔の姫と真紅の騎士
腐った錆のような臭いが、鼻についた。
よく嗅ぎなれた……人が死んだ臭いだ。
チラッと横を見ると、吐くのを堪えているアリウムの姿があった。
「……間に合わなかったな」
「……仕方、ありません」
アリウムが突然カイたちに助けてほしいと懇願し、ついてきた先はカイたちが今まさに敵対しているドータル国の中心だった。
しかも、ドータル国王クロユリが悠々と過ごしている城の中。
クロユリを殺すのにはちょうどいい場所だ。
今ならクロユリを殺せるかもしれない。
誰もがそんなことを考えているだろうが、何故か聖剣士六士の誰もクロユリを殺そうと動かなかった。
何故かそのことがおかしく思えてカイは小さく笑ってしまった。
アリウムが訝しげに見てきたのが分かったが、カイは気にせず扉に手をかける。
「えらい頑丈な扉だな。それに鎖も頑丈だ」
「はい。おそらく、この城の中で一番頑丈な扉だと思います。スイレン様が逃げないようにしているんです。スイレン様には、この扉を開けるほどの筋力がありませんから。でも万が一ということを考え鎖もかけました」
ガチャガチャと音を立てて扉にジャラジャラとくっついている鎖を外していく。
その間も足下ではピチャピチャと音がする。
「それにしても……最悪ですね。頑丈な扉のくせに中から血をこぼしてくるなんて」
アネモネとカイは共に嘲笑を浮かべた。
扉の前には血がため池のように溜まっていた。
降りた瞬間の錆臭さはこれだったのだ。
カイ以外の聖剣士六士は何も話さない。
スイレンを助けてあげたいと思う気持ちはあるが、内心ではドータル国なんて国に来たくもないと思っているのだ。
「……中は、どうなんだろうな」
「……」
カイの問いにアリウムは口を開かなかった。
鎖がすべて取り除かれると、聖剣士六士はごくりと喉を鳴らした。
口の中がすごく乾いている。
唾で潤いを保つが、それも意味をなさなくなる。
「……開けますか?」
アリウムがまっすぐにカイの目を見据えた。
カイは腹をくくり、グイッと扉を引いた。
その時だ。
その時、彼女の顔を見たんだ。
苦しそうに、悲しそうに、顔を歪めて、それでも涙は流れていなかった。
よく嗅ぎなれた……人が死んだ臭いだ。
チラッと横を見ると、吐くのを堪えているアリウムの姿があった。
「……間に合わなかったな」
「……仕方、ありません」
アリウムが突然カイたちに助けてほしいと懇願し、ついてきた先はカイたちが今まさに敵対しているドータル国の中心だった。
しかも、ドータル国王クロユリが悠々と過ごしている城の中。
クロユリを殺すのにはちょうどいい場所だ。
今ならクロユリを殺せるかもしれない。
誰もがそんなことを考えているだろうが、何故か聖剣士六士の誰もクロユリを殺そうと動かなかった。
何故かそのことがおかしく思えてカイは小さく笑ってしまった。
アリウムが訝しげに見てきたのが分かったが、カイは気にせず扉に手をかける。
「えらい頑丈な扉だな。それに鎖も頑丈だ」
「はい。おそらく、この城の中で一番頑丈な扉だと思います。スイレン様が逃げないようにしているんです。スイレン様には、この扉を開けるほどの筋力がありませんから。でも万が一ということを考え鎖もかけました」
ガチャガチャと音を立てて扉にジャラジャラとくっついている鎖を外していく。
その間も足下ではピチャピチャと音がする。
「それにしても……最悪ですね。頑丈な扉のくせに中から血をこぼしてくるなんて」
アネモネとカイは共に嘲笑を浮かべた。
扉の前には血がため池のように溜まっていた。
降りた瞬間の錆臭さはこれだったのだ。
カイ以外の聖剣士六士は何も話さない。
スイレンを助けてあげたいと思う気持ちはあるが、内心ではドータル国なんて国に来たくもないと思っているのだ。
「……中は、どうなんだろうな」
「……」
カイの問いにアリウムは口を開かなかった。
鎖がすべて取り除かれると、聖剣士六士はごくりと喉を鳴らした。
口の中がすごく乾いている。
唾で潤いを保つが、それも意味をなさなくなる。
「……開けますか?」
アリウムがまっすぐにカイの目を見据えた。
カイは腹をくくり、グイッと扉を引いた。
その時だ。
その時、彼女の顔を見たんだ。
苦しそうに、悲しそうに、顔を歪めて、それでも涙は流れていなかった。