純潔の姫と真紅の騎士



憎たらしかった。

愛しいと紡ぐその闇が、慈しみたいというその靄が、何もかもが嫌だった。

「許さない」

彼の靄が初めて怒りで歪んだ。

何故か笑ってしまった。

彼は、怒っているのか、泣いているのか。

「我に逆らうなど、許さない。お前は我の物だ。離れるなんて、許さない」

本心すら言えず、ただ流れるままに身をゆだねる。

弱く、しかし強さを必要とする。

身体が動かない。

錘を体につけられたかのように身体が重たい。

それでも最後の力を振り絞って、泣きそうになりながら、震える指を扉からのぞいた顔の頬に伸ばした。

息ができない。

苦しい。

助けて。

まだ死にたくない。

まだ、世界を見ていない。

目が痛い。

見えない。

見えなくなる。

助けて。

血の付いた指が、彼の頬に触れて力なく落ちる。

かすんだ視界に嘆く彼を映しながら、薄く微笑んだ。

「ごめんなさい……」

きっと、彼に辛い思いをさせてしまうかもしれない。

けれど、私の目に彼が映った。

水晶以外は何も見えないはずの私の目に。

彼は驚くほど綺麗な顔をしていた。

「地獄に堕ちろ」

一瞬で遠ざかった視界の中で、彼の顔が歪んでいくのを、確かに見た。

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