純潔の姫と真紅の騎士
「……。……い。……おい!おい!おい、カイ!」
頬に鋭い痛みを感じ、目を開けるとぼんやりと風景が飛び込んでくる。
それは次第にハッキリと形を象り、ハンスが自分を心配そうに見ていた。
カイが目を覚ますと、ハンスは安心したのか、ほっと安堵の息を吐いた。
ハンスは側に置いてあった水をカイに渡すと、自分も一口水を飲んだ。
カイが水を少し飲んだのを確認して、ハンスはゆっくりとしたいつもの口調でカイに聞いた。
「カイさ、自分に何があったか覚えてるかぁ?」
自分に、何があったのか……。
黒い靄が扉を開けた瞬間に広がって、白い腕が伸びてきて、扉がしまって……。
おかしい。
扉が閉まった?
白い腕は伸びてきた?
曖昧でゴチャゴチャな記憶に首を横に振ると、ハンスは苦笑した。
「だよな!俺らもよぉ、実はみたことが信じらんねぇんだっつーか、今一つ現実味がねぇからわかんねぇけど……。カイ、お前この城のお姫さんに助けられたぞ」
無意識のうちに眉をしかめていた。
「まぁ、そんな顔すんのもわかるけどよ、ちょっと俺の話聞いてみねぇか?」
静かにカイが頷くと、ハンスはにへら、と笑った。
「カイが扉を開けた瞬間、黒い靄がカイとアリウムちゃんを飲み込んだんだよ」
「「カイ!アリウムちゃん!」」
聖剣士六士の声が被った。
あのアネモネまでもが驚いた顔をして目を見開いていた。
聖剣士六士は慌て、同時に扉を全開にし、黒い靄の中に入ろうとした。
が、頭の中に声が響いた。
「この二人は私が助けます」
鈴を転がしたような、心地のよい響きだった。
安心するような音。
親の温もりは知らないが、まるで母親に抱かれたかのようにほっとする。
聖剣士六士は互いに目を合わせ、一か八かで、声の主に任せると決めた。
辛抱強く待つこと数秒。
聖剣士六士たちの中では、その数秒が数時間経ったかのように思えた。
アネモネがシノに抱きついたのと同時に黒い靄からカイとアリウムが飛び出てきた。
白い、日焼けを知らないような肌をした細い腕が、二人の背中を押していた。
ハンスは二人をシノとチェレン、ノイズに任せ、その腕を掴んだ。
おそろしく冷たい腕だった。
一瞬、ビクッと腕が震えた。
「お前も一緒にでるんだよ!!」
ハンスが力強くその腕を掴み、叫ぶと、寂しそうな声がまた頭に響いた。
「私はこの靄から出られません。この方と一生を共にすると決めましたから」
「世界を見てぇと思わねぇのかよ!!」
「……そうですね。水晶からたくさんの世界を見てきました。魔法の世界、自然のみの世界、動物たちが弱肉強食をして生き残る世界、そして、人が無駄な殺し合いをする世界。他にも世界はたくさんあるのでしょうね。あの花に、あの物に、あの人に触れたい。見たい、たくさんのことを肌で感じたいと思います。それでも、私はダーク様から離れることができないのです」
「何でだよ!!俺が助ける。俺が引き出してやる!世界を見せてやるから!」
ハンスが思い切り引っ張っても、腕から先が靄からでることはなかった。
逆に、すごい力で引き戻されていく。
「あなたは優しい人ですね。ですが、私はここから出られません。もし、出れたとしてもダーク様がすぐに私を連れ戻すでしょう。その時、世界の人々は死にますよ。ダーク様は強いです。おそらく、この世界で最も強いです」
扉の奥の奥の奥の方から、スイレン、スイレン、スイレンと呼ぶ声がする。
その声を聞いた瞬間、鳥肌がたった。
震えも止まらない。
足がガクガクとダサイくらい震える。
それでも踏ん張っていると、彼女が柔らかい声色でそっとハンスに語った。
「あなたたちには勝つことはできません。諦めてください。ですが、勝つことはできなくても、止めることならできます。お願いします。もう、人の命が消えていくのは嫌なんです」
それでも、ハンスは彼女の腕を離さなかった。
離してはならないと本能が騒いでいた。
だけど、強い力が彼女を闇の中に引き戻してしまった。
それと同時に扉が勝手に閉まって鎖が頑丈に扉にカギを閉めた。
ハンスはペタン、と地面に膝をついた。
離してしまった……。
彼女を……闇に喰わせた……。
彼女が……彼女は……彼女を……。
「ああああああああああああああ!!!!!!!」
ハンスは自分の手を握り、叫んだ。
頬に鋭い痛みを感じ、目を開けるとぼんやりと風景が飛び込んでくる。
それは次第にハッキリと形を象り、ハンスが自分を心配そうに見ていた。
カイが目を覚ますと、ハンスは安心したのか、ほっと安堵の息を吐いた。
ハンスは側に置いてあった水をカイに渡すと、自分も一口水を飲んだ。
カイが水を少し飲んだのを確認して、ハンスはゆっくりとしたいつもの口調でカイに聞いた。
「カイさ、自分に何があったか覚えてるかぁ?」
自分に、何があったのか……。
黒い靄が扉を開けた瞬間に広がって、白い腕が伸びてきて、扉がしまって……。
おかしい。
扉が閉まった?
白い腕は伸びてきた?
曖昧でゴチャゴチャな記憶に首を横に振ると、ハンスは苦笑した。
「だよな!俺らもよぉ、実はみたことが信じらんねぇんだっつーか、今一つ現実味がねぇからわかんねぇけど……。カイ、お前この城のお姫さんに助けられたぞ」
無意識のうちに眉をしかめていた。
「まぁ、そんな顔すんのもわかるけどよ、ちょっと俺の話聞いてみねぇか?」
静かにカイが頷くと、ハンスはにへら、と笑った。
「カイが扉を開けた瞬間、黒い靄がカイとアリウムちゃんを飲み込んだんだよ」
「「カイ!アリウムちゃん!」」
聖剣士六士の声が被った。
あのアネモネまでもが驚いた顔をして目を見開いていた。
聖剣士六士は慌て、同時に扉を全開にし、黒い靄の中に入ろうとした。
が、頭の中に声が響いた。
「この二人は私が助けます」
鈴を転がしたような、心地のよい響きだった。
安心するような音。
親の温もりは知らないが、まるで母親に抱かれたかのようにほっとする。
聖剣士六士は互いに目を合わせ、一か八かで、声の主に任せると決めた。
辛抱強く待つこと数秒。
聖剣士六士たちの中では、その数秒が数時間経ったかのように思えた。
アネモネがシノに抱きついたのと同時に黒い靄からカイとアリウムが飛び出てきた。
白い、日焼けを知らないような肌をした細い腕が、二人の背中を押していた。
ハンスは二人をシノとチェレン、ノイズに任せ、その腕を掴んだ。
おそろしく冷たい腕だった。
一瞬、ビクッと腕が震えた。
「お前も一緒にでるんだよ!!」
ハンスが力強くその腕を掴み、叫ぶと、寂しそうな声がまた頭に響いた。
「私はこの靄から出られません。この方と一生を共にすると決めましたから」
「世界を見てぇと思わねぇのかよ!!」
「……そうですね。水晶からたくさんの世界を見てきました。魔法の世界、自然のみの世界、動物たちが弱肉強食をして生き残る世界、そして、人が無駄な殺し合いをする世界。他にも世界はたくさんあるのでしょうね。あの花に、あの物に、あの人に触れたい。見たい、たくさんのことを肌で感じたいと思います。それでも、私はダーク様から離れることができないのです」
「何でだよ!!俺が助ける。俺が引き出してやる!世界を見せてやるから!」
ハンスが思い切り引っ張っても、腕から先が靄からでることはなかった。
逆に、すごい力で引き戻されていく。
「あなたは優しい人ですね。ですが、私はここから出られません。もし、出れたとしてもダーク様がすぐに私を連れ戻すでしょう。その時、世界の人々は死にますよ。ダーク様は強いです。おそらく、この世界で最も強いです」
扉の奥の奥の奥の方から、スイレン、スイレン、スイレンと呼ぶ声がする。
その声を聞いた瞬間、鳥肌がたった。
震えも止まらない。
足がガクガクとダサイくらい震える。
それでも踏ん張っていると、彼女が柔らかい声色でそっとハンスに語った。
「あなたたちには勝つことはできません。諦めてください。ですが、勝つことはできなくても、止めることならできます。お願いします。もう、人の命が消えていくのは嫌なんです」
それでも、ハンスは彼女の腕を離さなかった。
離してはならないと本能が騒いでいた。
だけど、強い力が彼女を闇の中に引き戻してしまった。
それと同時に扉が勝手に閉まって鎖が頑丈に扉にカギを閉めた。
ハンスはペタン、と地面に膝をついた。
離してしまった……。
彼女を……闇に喰わせた……。
彼女が……彼女は……彼女を……。
「ああああああああああああああ!!!!!!!」
ハンスは自分の手を握り、叫んだ。