純潔の姫と真紅の騎士
二人は顔を見合わせる。
「はっは!!笑えるな!腹黒いドス黒い靄がたった一人の女に盲目なんてよぉ!」
ハンスは声をあげて笑ったが、その反面、カイは真剣な面もちでつぶやいた。
「……あの靄に捕まったら二度と出られない。俺たちは”奇跡 ”的に出られたんだな。だが……、ダークの獲物を逃したことになる。信用していたスイレンに裏切られたと思うダークはどうするんだろうな」
「より一層深く、強く束縛するか、殺すかの2択ですね」
ふいに聞こえた声のほうを見ると、アリウムが小さく笑いながら扉に肩を預けて立っていた。
「少なくとも、無傷で手放されるという選択はないでしょう」
ハンスがにへら、と笑って椅子からひらりと飛んで、アリウムの目の前に軽い音を立てて飛び降りた。
「アリウムちゃああああん♪傷は大丈夫かぁ?どこもいたくないか?どう?どう?」
「はい、大丈夫ですよ。ありがとうございます。ここまで連れてきてくれたのがハンスさんだって聞いて、お礼を言わないと、と思っていました」
二人がじゃれあっている反面、カイは自分の体が恐ろしく冷たくなるのがわかった。
あれは……誰だ?
脳裏に浮かぶ、自分の嫌いな顔がそこにはあった。
嫌だ。
嫌だ。
嫌い。
嫌い。
怖い。
そうだ……。
早く、早く、殺さないと……。
じゃないと、自分が……。
殺される―――
荒い息づかいで、まるで獣のような獰猛な目でアリウムを睨んだカイは、ハンスを押し退けてアリウムの首を掴んだ。
「どこで―――どこでそんな顔覚えた」
「……どっ、いう、意味……ですかっ」
「お前、いつからそんな顔するようになったんだ」
「……え?」
「お前、前はそんな顔をしていなかった」
「何をおっしゃっているのか、あたしにはさっぱり……」
嘲笑の笑みを浮かべたアリウムにカイが突っかかる。
「ふざけるな!そんな顔……、どこで覚えたんだよ!!」
アリウムを殴ろうとしたとき、扉が大きな音を立てて開かれた。
扉の先には、アネモネを両手で抱えたシノが右足をあげたまま立っていた。
「……悪い。……両手が塞がっていたから足で開けた」
暗殺者としての癖なのか、足音を立てずに部屋に入ってくる。
カイは怒りが冷めたのを感じ、ゆっくりとアリウムの胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「……悪い。どうやら混乱して取り乱してしまった」
アネモネがぴょんっとシノの腕から飛び降りると、カイの足にしがみついた。
「怒っちゃダメだよぉ。昔のことを思い出しちゃダメだよぉ。カイはリーダでしょぉ?落ち着こうよぉー」
カイはアネモネを抱き上げ、その額にキスを落とした。
「あぁ。ありがとう」
カイが落ち着くと、シノがアネモネのウサギの人形をアネモネに渡した。
「……アネモネ。何を視たのか、カイに教えるんだ」
「うん。あのねぇー、カイ。夢を視たの~。あの女の人がね……繋がれてたのぉ。見えない鎖に。お前は逃げられないって、逃がさないって。全身の鎖がジャラジャラ鳴ってたねぇ。重たいし、冷たいって女の人困ってたねぇ。大変だねぇ。それでねぇ、光を視たんだぁ。光の先に黒猫がいてねぇ、金色の目をしていたよぉ。でねぇ、女の人がねぇ、抱き上げた瞬間にねぇ……。落ちたんだ」
雷鳴が鳴った。
まるで、何かが起こる前触れのように。
「はっは!!笑えるな!腹黒いドス黒い靄がたった一人の女に盲目なんてよぉ!」
ハンスは声をあげて笑ったが、その反面、カイは真剣な面もちでつぶやいた。
「……あの靄に捕まったら二度と出られない。俺たちは”奇跡 ”的に出られたんだな。だが……、ダークの獲物を逃したことになる。信用していたスイレンに裏切られたと思うダークはどうするんだろうな」
「より一層深く、強く束縛するか、殺すかの2択ですね」
ふいに聞こえた声のほうを見ると、アリウムが小さく笑いながら扉に肩を預けて立っていた。
「少なくとも、無傷で手放されるという選択はないでしょう」
ハンスがにへら、と笑って椅子からひらりと飛んで、アリウムの目の前に軽い音を立てて飛び降りた。
「アリウムちゃああああん♪傷は大丈夫かぁ?どこもいたくないか?どう?どう?」
「はい、大丈夫ですよ。ありがとうございます。ここまで連れてきてくれたのがハンスさんだって聞いて、お礼を言わないと、と思っていました」
二人がじゃれあっている反面、カイは自分の体が恐ろしく冷たくなるのがわかった。
あれは……誰だ?
脳裏に浮かぶ、自分の嫌いな顔がそこにはあった。
嫌だ。
嫌だ。
嫌い。
嫌い。
怖い。
そうだ……。
早く、早く、殺さないと……。
じゃないと、自分が……。
殺される―――
荒い息づかいで、まるで獣のような獰猛な目でアリウムを睨んだカイは、ハンスを押し退けてアリウムの首を掴んだ。
「どこで―――どこでそんな顔覚えた」
「……どっ、いう、意味……ですかっ」
「お前、いつからそんな顔するようになったんだ」
「……え?」
「お前、前はそんな顔をしていなかった」
「何をおっしゃっているのか、あたしにはさっぱり……」
嘲笑の笑みを浮かべたアリウムにカイが突っかかる。
「ふざけるな!そんな顔……、どこで覚えたんだよ!!」
アリウムを殴ろうとしたとき、扉が大きな音を立てて開かれた。
扉の先には、アネモネを両手で抱えたシノが右足をあげたまま立っていた。
「……悪い。……両手が塞がっていたから足で開けた」
暗殺者としての癖なのか、足音を立てずに部屋に入ってくる。
カイは怒りが冷めたのを感じ、ゆっくりとアリウムの胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「……悪い。どうやら混乱して取り乱してしまった」
アネモネがぴょんっとシノの腕から飛び降りると、カイの足にしがみついた。
「怒っちゃダメだよぉ。昔のことを思い出しちゃダメだよぉ。カイはリーダでしょぉ?落ち着こうよぉー」
カイはアネモネを抱き上げ、その額にキスを落とした。
「あぁ。ありがとう」
カイが落ち着くと、シノがアネモネのウサギの人形をアネモネに渡した。
「……アネモネ。何を視たのか、カイに教えるんだ」
「うん。あのねぇー、カイ。夢を視たの~。あの女の人がね……繋がれてたのぉ。見えない鎖に。お前は逃げられないって、逃がさないって。全身の鎖がジャラジャラ鳴ってたねぇ。重たいし、冷たいって女の人困ってたねぇ。大変だねぇ。それでねぇ、光を視たんだぁ。光の先に黒猫がいてねぇ、金色の目をしていたよぉ。でねぇ、女の人がねぇ、抱き上げた瞬間にねぇ……。落ちたんだ」
雷鳴が鳴った。
まるで、何かが起こる前触れのように。