純潔の姫と真紅の騎士
「砂漠の国なんて暑ぃとこ俺行きたくねぇ!」
目の前で叫んだ男、レジー・ハンスをカイは冷めた目で見据えた。
レジー・ハンスはお喋りな男で彼はいつも文句ばかり言う。
そのたびに宥めるのが……
「仕方ないっテ!砂漠の国は死角が少ないかラ、遠距離で攻撃できるうちらが出撃しないトさっさと仕事が終わんないんだかラ!」
そばかすが特徴的なクルー・チェレンだ。
チェレンはハンスの後ろで括った金髪の少し長い髪をグイッと引っ張る。
ハンスは少し顔を歪めて抵抗した。
「いてててて。でもよぉ、俺暑ぃの大嫌いなんだぜ?拷問だ拷問ーーーーーー!!!!」
チェレンは小さくため息をついて、橙色の肩までの髪を耳にかけた。
それをじっとみていた男、和国出身のシノがようやく口を開けた。
「……では、ハンス。……大量の書類にサインをするのと暑い砂漠で戦うこと、どちらがいい」
シノの言葉にハンスがうっと言葉を詰まらせた。
その間もシノは黒色の目をジッとハンスに向けている。
シノはこの国では珍しい和国出身で黒髪黒目が特徴的だが、その姿は夜になると闇に溶ける。
その特徴と身体能力の高さを活かし、シノは暗殺・諜報役として俺たちには欠かせない人物である。
だが、無口なため大勢でいるときは滅多に喋らないが仕事はしっかりとしてくれる。
ハンスが渋々足を馬へと向けたのをみて、書類よりも戦いを選んだことをカイたちは黙認した。
が、ハンスがあと一歩のところで馬につくというところで足を止めた。
「いや、やっぱりここは迷うべきところだよな!」
など独り言を大声で叫ぶ。
いい加減行ってほしいと叫ぶ気持ちを押さえ込むカイたち。
「でも、いい加減行かないともう落とされてるかもしれないよねぇ。それは大変だよねぇ。落とされてたら王様に怒られちゃうよねぇ。それでバカにされるんだぁ。”聖剣士六士もなんてことねぇな ”ってねぇ」
まだ幼い声がした方を振り向くと、そこにはウサギの人形を持った桃色の髪と目をした少女、ティティー・アネモネが立っていた。
両手でウサギを目の前に抱き上げて独り言を言っている。
それは確かにハンスに向けられたものだったが、アネモネはウサギと話しているだけなのだ。
アネモネは不思議な子でいつもウサギに独り言を言っていて、いつもボーっとしている。
あまり喋らないが必要となれば喋るし、たまにスゴイ事をいう。
その言葉に行動することも少なくはない。
実際、今のアネモネの言葉でハンスは馬に跨り、ニヒッと笑った。
「おめぇら、俺の活躍を土産にもって帰ってきてやる!待ってろよ!」
「もウ、ハンスなんか置いてくカラ!」
叫ぶハンスを置いてさっさと馬を走らせたチェレンをハンスは慌てて追いかけた。
「二人とも大丈夫でしょうか?怪我とかしませんかね?結構人数が多いらしいですし……」
今までおろおろと会話を聞いていたジーニャ・ノイズがカイの袖を引っ張った。
ノイズは孤児だったところを聖剣士六士の父と呼ばれるシーフーに拾われ、聖剣士六士となった。
心配性だが、しっかりするときはしっかりしているので、聖剣士六士の中では少しか弱いお姉ちゃんポジションにいる。
「…大丈夫だろ。あの二人に勝てる奴なんてそういないはずだ」
カイがそう答えるとノイズは少しほっとしたように胸をなで下ろし、袖を掴んでいた手も離した。
「……俺たちも書類まとめるか……」
カイが事務室へと足を運びに行くと、ノイズもそれについていった。
シノもついていこうとしたが、アネモネがずっと立って二人を見送っていたのを見つけると、足を止めた。
アネモネがウサギの人形に独り言を呟いた。
「大砲がなったらね、人がお空を飛ぶんだよぉ。こわいねぇ。戦争なんて唯の殺戮だよねぇ」
シノにはその独り言は聞こえず、アネモネを抱き上げた。
アネモネはまだ幼く、シノが片手で抱き上げれるほど小さい。
抱き上げられたアネモネは慣れたようにシノの肩に座る。
シノはそれを支えながら事務室へと足を運んだ。