黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
「なに2人して、窓の外見てるの?」
ふいに頭上から聞こえた声に、首だけを上に向ける。
そこには、弱いオレンジ色のバスの照明を逆光に背負い、シートの背もたれの上から俺達を覗き込む、 [ 仁科 司(にしな つかさ)] の顔があった。
「なんだ司?
覗き見とは趣味がわるいぞ?」
「ごめんごめん♪
七夜と裕也くんが仲良さそうにしてたからさ、オレも混ぜて欲しくって」
司は、背もたれの部分に手をかけながら、きれいな顔立ちを自然な笑顔に変えた。
その笑顔に、俺は不覚にも、男相手に少し…ほんの少しだけだが、ドキッ…としてしまった。
『…こいつも裕也に負けず劣らず、女顔だよな…。
…しかもそこらの女子より、かわいいよな…』
心の中で思わずそうつぶやくが、そんな気持ちの悪いこと、もちろん間違っても口には出さない。
……ちなみに司は、一回本気で女装をさせてみたいというくらい、中性的で整った顔立ちをしている。
それに加え、茶色味がかったサラサラの髪、あと、運動抜群成績優秀ということも相成って、女子の間では密かに “ 王子様 ” とも呼ばれていた。
もちろん、それは悪口などではなく、純粋に司の人気のあらわれだ。
しかし当の本人は、そう呼ばれることがあまり好きではないらしい。
…まあもっとも、もしも自分が『王子様』だなんて呼ばれたら、俺も嫌だと思うから気持ちもわかるが…。