黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
…今の音…そして左足外側に当たった衝撃は…!?


反射的に左下へと視線を走らせれば、理由は明確だった。


客席シート。


俺のすぐ左隣りには、客席シート。


そしてそのシートに座っていたクラスメイトと、目があう。

若干こちら側から身を引き、目を見開いて俺の顔を見上げる、その女子生徒。


… “ 何か ” に衝突するのは当たり前だ。

だってここは、幅50cm程度のバスの中央通路なんだから。

足元を見るまでもなく、今の衝撃は、座席付け根部分の金属が当たったものだとわかる。


直後、俺の右上方から、賞賛と呆れと嘲笑を足して3で割ったような声が聞こえた。


「どうやら読み “ だけ ” は当たってたらしいなぁ?
…が、こんな狭い通路でサイドに飛んで避けるバカがいるかぁ…?
そして俺が何も考えずにぃ、こんな隙のでかい大振りを初っぱなから打つと、そう思ったのか…?」


聞いた瞬間、『しまった!』と思った。

一瞬にして全身から冷や汗が噴き出すほどの焦りを感じた。


…良雄は始めから、計画的に攻撃を仕掛けてきていたんだ…!

こんな幅のない通路では、こちらが左右に避けるという選択も、避けた後に反撃するという選択も、不能なことを考慮して…!


そこまで気がつき、後悔した次の瞬間には、サイドステップの慣性で、左太もも、次に左腕が、シートの背もたれ部分に衝突していた。

バランスが崩れる。


パニック寸前の脳内に、再びさっきと同じ声が響いた。


「次は左ボディブロー(左拳による腹部への打撃)いくぞ?
そんな態勢からかわせるかぁ…!?
かわせるか、吉良七夜ぁー!」


もはや良雄から確認されるまでもなく、パニックと態勢不備により、制御不能&回避不能な俺の身体。


刹那。




──ドスウゥッッ!!




……腹部に、強烈な一撃。
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