黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
夏樹のシートは、運転席から数えて3つ後ろの席だった。


先頭の司がそこまでたどり着くと。


「……あ。 仁科くん、どうしてここに?」


司を出迎えた、凛としたメゾソプラノ。

そのメゾソプラノの持ち主……少女モデルのように驚くほど顔立ちの整った、ショートカットの女子生徒が、司の顔をシートから見上げている。


「い…じゃなくて、水無月(みなづき)さんっ…?」


声同様、凛とした涼しい顔に見つめられた司が、わずかに動揺しているのが後ろからでもわかった。

そして動揺する理由も明確。

俺は心の中で思った。


…うわぁ…。

夏樹の隣りの席って委員長だったのか…。

…そういえば、アウトレットで夏樹と一緒にハンバーガー(正式名称はカニフライトマトバーガー。夏樹がどうしてもカニが食べ たいと言ってみんなで注文した。司や俺の予想を大きく裏切り、結構おいしかった。値段490円。)を食べてた時、たしか言ってたっけ…。


その心の声が聞こえたのか、単に気配を感じたのか、それとも司の視線が無意識にこっちに流れたのか、[ 水無月 綾(みなづき あや)] がこちらを向いた。


「白川くんに小町屋さんに…それに吉良くんまで?
どうしたのみんなで? 何かあったの?」


シートから若干通路側に上半身をのりだし、『涼しげな』……というよりは、『冷ややかな』ともとれる表情を、こちらに向ける。


俺は再び心の中でつぶやいた。


…これは上戸先生に怒られる前に、委員長に怒られるフラグか…?


思わずぎこちない愛想笑いを浮かべる。
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