”キレイ”な愛
「送ってく。
 事実、待ってたから」


綺樹が再び見上げると、涼の横顔は薄く笑っていた。

有無を言わさぬように、綺樹の腰に回した腕に力がこもった。

涼の速い歩みに、足がもつれて、しばしば腕にしがみつくようになる。


「私の車」


綺樹はぐらぐらする頭を指で支えて、ホテル前に横付けされている、黒塗りの列を眺めた。

今の駆け足で、酔いが急激に回り始めていた。


「うちの車で送る」


気が付いたら、手助けをされて、車の後部座席に座っていた。


「お祖父さんは?」

「先に帰ったよ。
 年寄りに長居は辛いだろ」


納得して綺樹は目を閉じた。


「おいおい、寝るなよ。
 家、どこだよ」

「家?」


呟いて、薄目を開けた。
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