”キレイ”な愛
「知らない」

「知らないって」

「グレース」


綺樹は秘書の名前を呟きながら、携帯を取り出した。


「グレース?
 私の家の住所はなに?」


呂律が怪しいながら、鸚鵡返しに呟くのを、運転手がナビに入れた。


「涼。
私に、何か、用事?」


ナビ画面から綺樹に視線を戻すと、綺樹はドアに寄りかかって、眠り込んでいた。

手にしていた携帯が滑り、足元に落ちる。

涼は身をかがめて、手を伸ばした。

ふわっと、綺樹の香りに包まれる。

ライナの家で、日々薄まっていった香り。
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