”キレイ”な愛


テレビで見たことがある。

行ったことがあるかと聞くと、綺樹はそう答えた。

地下鉄に乗ろうとしたら、一瞬躊躇した。


「地下鉄で行くのか?」


怯えたように目を見開いている。


「NYと違って、安全だよ」

「ああ、うん」


そういいながらも、乗るとドアの隅に身をひそめ、両腕を体に回していた。

過去に何かあったのかもしれない。

涼は路線図を見上げて、違う路線で行く見当をしていると、腕をつかまれた。


「大丈夫だ」

「別にこれを使わなくても行けるし」


綺樹は首を振った。


「いつまでもこのままでいいわけないから。
 克服しないとね」


薄く自嘲して暗い窓の外に視線を向ける。
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