4th.Saudade

葵の方へ行くと、隣に座るように促された。
それに従って隣に座る。

「梨乃、どうしたの?」

「……別に」

特に意味はない。
でも何となくまだ家に帰りたくなかっただけ。
祐と同じ電車にならないように。

「葵、何読んでたの?」

「小説だよ。恋愛小説」

それを聞いて、思わず吹き出してしまった。
葵が、恋愛小説って……。
意外と似合うことに驚いた。

「笑うなよな、結構おもしろいんだから」

「へぇ。どんな話?」

「彼女がいるけど、他に気になる子が出来ちゃう話」


驚いて、言葉が出なかった。

葵も、そういうことがあるの?
瑞希じゃなくて、他の人に心を奪われることが……。

あたしがあなたの瞳に映ることが、あるのですか?

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