4th.Saudade
「葵も、そういうことあるの?」
動揺を気付かれないように、平然を装って聞く。
我ながらうまくごまかせていると思った。
「瑞希には、秘密だよ」
舌を出して、おどけた顔をする葵。
ねぇ、それは誰に対して心が揺れたの?
「へぇー。葵って一途じゃないんだ」
これは意地悪。
いつも心の中を見せない葵への、精一杯の抵抗。
「あ、そう見える?」
いつものように流すような返事。
いつだって主導権は葵なんだ。
誰にも本音を悟らせない。そんなのずるいよ。
「だって、瑞希以外の人が気になったことあるんでしょ?」
「そりゃぁさ、小さい頃から一緒なんだよ?
たまには他の人がいいなって思うさ」
「瑞希が、すきなんでしょ?」
葵は、瑞希の彼氏なんだから、即答すると思ってた。
いい加減、諦めなきゃって思ってた。
友達の彼氏がすきだなんて……。
「すきっていうのもいろいろな形があるからね」
葵はそう言って、悲しそうに微笑むだけだった。