4th.Saudade

「あー、天気悪いな」

「梅雨入るしね」

「俺傘持ってねぇや」

あたしは基本あんまり話さないし、葵もあんまり話す方じゃない。
だから沈黙も多い。
でもその沈黙は、嫌じゃない。

葵は黙っていても、確かな存在感があるから。
だから一人じゃないんだって安心できるんだ。

「瑞希から聞いたけど、梨乃って剣道やってたんだって?」

「中学の時ね」

「何で辞めたの?」

そう聞かれて、あたしは思わず俯いてしまった。
話したくないとかじゃない。
きっと葵なら、あたしのすべてを受け入れてくれる。

でも、やっぱり言いたくないな……。

その表情に気付いたのか、葵は話を変えてくれた。
そういう人の感情に敏感なところが、いいところだと思う。

「俺、基本なんでも出来るから、打ち込んだものねぇや」

「何、自慢?」

「うん」

そう言って屈託なく笑う。
本当葵って自由人っていうか、縛られないっていうか……。
でも不思議と憎めないタイプなんだよね。

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