ジルとの対話
Chord G
ある晩の事だった。レイン通りにジルがやってきた。
レイン通りにはハードコアが流れるパブが連なっていて、キースがよく仲間と連んでいると聞いた。
鉄の枠に縁られた木の扉を開けると、プロレスラー風の男が立ちはだかって、ジルの行く手を阻んだ。
「ここのドアをとおるなら、700ポンド払え。」
「ここは、公道だろ。」
ジルは筋肉質の男に言い返した。
「俺の許可が無きゃ800ユーロ。そういう決まりだ。」
男はそう言って、ジルの背中を軽く叩いた。
「決まり?」
「そうさ。ルール、700でも良いんだ。それでここはビールが飲み放題だ。それに賭博。神様に背いても、報いは遠い、俺に背けば、報いは直ぐそこ、お前のロザリオなんてすてな。俺には背かん方がいい。」
男はそう言ってジルのポケットを指差した。
ジルは渋々652ポンド引っ張り出し、彼に支払った。
全くどうしてこんな目に、ため息をついて、ジルはキースの本へたどり着いた。
「なぁどうしてこんな所にいるんだ。」
キースがジルに尋ねた。
「冷たいな、キースに会いに来たんじゃないか。」
ジルは答えた。
「ジル、そんなお上品な背広姿でどうした?それじゃふっかけらたろ?」
キースがホントに面白いと言った調子で笑った。破り捨てられたポスターが幾重にも貼られたパブの壁に、キースは身をもたれかけた。
「キース、君は僕を知っていてくれたのか、嬉しいよ。ここの人と来たら、全く僕のことを知っていてくれないみたいだ。」
「ロックしか知らない連中だからな。クラシック界なんて誰も知りたがらない。」
「寂しい孤島だな。ショパン、ドビュッシーが無くてどうして生きて行けるだろう。信じられない。」
ジルが肩をすくめて言った。
「652ポンドあれば、何日も食べられる。信じられないのはお前の方さジル、652ポンドもかけてこんな所にくるなんて。」
キースは笑いながら言い、タバコに火を付けた。
「そうとも言い切れないさ。」
ジルが腕組をして言った。
「どうして通行料がいるんだ。」
ため息混じりにジルは言った。
「ビールでも飲んで、生バンドを見ればもとはとれる、ジルがその652ポンドが高いか安いか、ここの連中を見て決めればいい。金を返したりしないが。」
キースがそう言うと、ジルの目は輝いた。
「キース、君は演奏するかい?」

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