ジルとの対話

「例えば、歌詞の中で、郷愁って言葉があるけど、旅に出て、郷愁を感じるのと、故郷に帰って郷愁を感じるのとは、違うだろ。故郷に帰ってきた郷愁は、嬉しい。海外に行って、遠い故郷を思う時は悲しい。今日は、みんなの顔が見れて嬉しいって曲。」
キースの言葉に場の雰囲気は盛り上がりを見せた。
メロディアスなギターが泣く良い曲だった。
そして何曲かハードな曲が続き、リハーサルが終わった。
本番が始まると客は見境なく踊り、ジルは
ステージが何も見えなくなったが、音楽はきこえた。

「いや~。力強いドラムだったよ。」
ジルはステージが終った後、打ち上げに参加して、アンナに言った。
「ありがとう。ジルは有名なピアニストなんだよね。」
アンナが照れたように訊いた。
「誰がそんな事を?あっそうだ、キースだね。僕は少しばかり有名なピアニストだよ。だけど、ただのピアニストじゃ無いんだ。魔法を使って天気を操るんだよ。」
ジルはクスクス笑ってアンナに言った。
アンナはぎこちない笑みを浮かべた。
「どうだった。652ポンドの価値はあったか?」
アランがジルをからかうように尋ねた。
「最高だったよ。」
笑顔でジルはかえした。
「ところでついさっき、このバンドには
スティーヴンがいたと誰か言ってだけど、なんで今日は3人だけなの。」
ジルに尋ねられると、3人は顔を曇らせた。
「スティーヴンがバカなの。バンドは運命共同体だから、自分の感情を抑えないとやってけないのに、バンド無視したから、出て行ったの。」
アンナが目を伏せて言った。
「あいつのソロの音嫌いでね。今日は呼んでない。」
キースが笑って言った。
「スティーヴンは、ハードコアやりたくなくなったんだ。」
アランが言うと、キースは頷いた。
「方向性がバンドと違くちゃ駄目だろ。まあジル、これを飲んでみろよ。」
とキースはジルにワインをすすめた。


 
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