ジルとの対話
Chord F
 夜が白むまで遊び続けた同胞たち。

深く闇にこだました怯えに、つかの間の支配をすると、小さく息をして、月下香は夢を作る。
賛美は夜にこそふさわしく、人智の及ばぬ神秘の中にあった。

湖は真っ黒に黙り込んで、荒ぶる怪物を隠している。
入ることに、畏怖を覚えた。

「遠くまで旅にでたいよ。」

フランツがステラに呟いた。

「そうね。ここは寂しい所ね。」

ステラが賢明に答えた。

「どうしてだろう。君がデビッドと2人でいるのが辛いんだ。いままで、姉弟みたいにやってきたのに。」

ステラはフランツのそばに座り、話を聞いた。心を痛めるように。

「あなたには誰か、愛情が必要なのよね。ただ、暗くさもしい所に住むデビッドはもっと必要なの。解ってあげて、あなたには難しい事では無いのよ。彼がどんな場所にいるか想像出来て?彼は、生まれくる生命と、無意味さに立ち会わされ、無を噛み締めているの。この世の中の生命があまりに短いので、虚しいの。心は、空になってしまった。」

ステラはフランツの目を覗き込みながら、言った。
フランツはただ、ステラを見つめ返した。

「同情なら、いつか、愛さなくなるのかい。」

フランツがステラに尋ねた。ステラは狼狽して、言葉を言いよどんだ。

「同情なら、そうね。」

ステラは独り言のようにフランツの言葉を噛み砕いた。

「僕は、恋をしているんだ。」

フランツがステラに言った。

「それは君さ。」

耳うちして、フランツは湖に走り去った。湖の深みまで、体を沈ませ、水面を眺めた。月がぼんやりと見えた。
ステラは、困ったように湖にため息をついた。少しばかり、笑みを浮かべていて不安気だった。

「同情ね。今ならあなたに同情するわ。」

ステラは大声でフランツに言った。
湖に顔を出した彼は、
「えっ?」

と聞き返した。

「フランツ、戻って来て。」

ステラが、また大声で言った。

「解ってるよ。」

湖から上がるフランツをステラは、呆れたように眺めた。

「どうしたの、急に湖になんか入って。」

「どうしてかな、君の家の本棚の事を考えてた。ずっと自分の事ばかり話続ける本と、黙り込んでしまう本に、笑ってばかりいる本、僕は笑ってばかりいる本が読みたくなったんだ。ガラス張りの部屋で、星空を眺めながら。」

フランツが熱心に言って、ステラを見つめた。

「彼らは気難しいの、急に押し掛けたら驚いてしまうわ。」

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