魅惑のくちびる
「……飲んできたのか? ……いいご身分だな。
彼氏が目をかけなくなったら、それであっけなくもうおしまいか。」
久々に口を開いたと思ったら、投げかけてきたのは聞きたくもない心無い言葉。
それは、溜まっていた文句が次第に煮詰まって、ドロドロの濁った心の声。
思わず耳を塞ぎたくなるけど……どんな状況でも今日はめげないんだ。
大きく深呼吸。
笑顔を作れば自然と声も笑う。気持ちも笑う。
可能な限り頬の筋肉を上げると、そのまま雅城の瞳を見つめた。
「雅城と最近、ご飯食べに行ってないよね。
今度の週末にでもゆっくり出かけたいなぁ」
意地っ張りの雅城は、その時点ではまだ顔が緩まないんだ。
でも、ゆっくりと氷が溶けるように、ぶっきらぼうにではあるけど、だんだんと喋ってくれるようになる。