魅惑のくちびる
「なんだそれ? 曖昧に首を振るだけだなんて、ホントにわかりやすい奴だな。
言い訳できない本当のことだから、何も言えないんだろう?」
雅城のことを、酷い人とか悪い人だなんて思いたくない。
雅城の性格なら、そんな噂話を聞いたら辛くて死にそうな状況なんだってわかっているんだ。
何より……わたしは、松原さんと過ごした秘密の時間に、やっぱり罪悪感をぬぐえずにいる。
――そう、だからこそ、謝って仲直りしようと思っていたハズだった。
でも、頭の中では抑えきれない別な感情もこみ上げてきているのがわかった。
わたし、一生懸命雅城を見ようとしてるよ。
なのに雅城は……自分の判断したことしか信じてくれなくて。
わたしが彼女として存在する意味がもう、わからなくなって来ていた――。