魅惑のくちびる

1208号室のドアを開けると、いつも会社で見慣れたダークブラウンの革靴が目に入った。

下駄箱の上にはダーツのミニボードと、フィカスプミラの小鉢が置かれている。


「意外だろ?」


小さな笑みを浮かべ、素焼きの鉢植えを指さしながら言った。


「部屋の中に緑があった方がいいかなって思ってさ。広瀬のやつに選んでもらったんだ。

だから、正直オレはこれがなんて名前でどう世話すればいいのかよく知らないんだよ。」


その割には、手入れがしっかりされているようなきれいな鉢になっている。

……松原さんなら、どんな小さな命にもしっかり愛情を注ぐ気がするよ。


部屋の真ん中には細長いコーヒーテーブルが置かれ、その横には無造作に雑誌が積み上げられている。

焦げ茶のチェストの上には、CDの山とLEDの時計があるだけで、後はテレビが載っかっているだけ。

色味の少ない部屋は、いかにも松原さんらしいと思った。

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