魅惑のくちびる
「あ……それなら多分、もう知ってるよ」
由真もピーンと来たらしい。
「だって、席があたしの隣だしね。あたしが誰かのお喋りで璃音の噂を聞いたってことは多分……」
由真が言い終わるか終わらないかで、わたしは大きなため息をついた。
「ああ。今日帰ってからが恐ろしいな」
卵がとろっとろの親子丼はね、いつもながらすごくおいしかったんだ。
でも……まずいなあって思わず口にしてしまうほど、わたしに重たくのしかかる要因。
それは同棲している彼氏・雅城(まさき)のこと。
雅城が所属してるのは、由真と同じ商品開発課、由真の言うとおり、あの噂が雅城の耳に届いている可能性は非常に高い。
「まあ、少し我慢すればいいだけよ。それにさ、愛されているからこそ、でしょ?」
「もうっ!どうせ由真には他人事だもんね」
あまりにもケラケラと笑うからちょっとだけ膨れてみせたけど、実は大して怒ってないって由真にはわかっている。
「あたしもそんなに愛されてみたいわあ」
そう言ってお水を飲みながらまた、笑った。
雅城とわたしが同棲していること以前に、付き合っていることも会社の人には非公式。
由真には絶対の信頼を置いているから相談に乗って貰っているけど、それ以外は誰一人として知らないことだ。
社内恋愛禁止ではないけれど、特にわざわざ言う必要もないだろういうのと、もう一つの理由は、1年半のできごとに起因していた。