魅惑のくちびる

「ずるいってわかってるんです……。

でもわたし、彼氏の言うことについていく自信をすっかり失ってしまって、気付けば松原さんに電話してました」


都合のいいやつだと思われても仕方ない。

でも、松原さんには本当の気持ちを話さなければフェアじゃない気がしたわたしは、ためらいもなく本心を打ち明けていた。


「人間、誰だって自分がかわいいもんさ。

誰かの代わりだとしてもオレを求めてくれた、それが嬉しいって感じてる。

彼氏とこのまま別れてしまえばいいのにって思うオレも、相当人間ができてないしね。」


いつしか、外は激しい雨に変わっている。

急に激しく窓に打ち付ける雨音は、心臓の鼓動が聞こえないようにごまかしてくれている気がした。


「松原さん――わたしまだ、頭の中に彼がいるんです。

こんな状況でここにいるの、本当に卑怯なんです……」


もはや、わたしは何が言いたくて、何を望むのか、自分でもよくわからない。

確実なのは、静かに心を休めたいと思っていること――。

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