魅惑のくちびる
床についた松原さんの手が、宙に浮いてわたしに近づくと、優しく肩を包んだ。
少し力強く抱擁し、頬を寄せて静かにつぶやく声が、肩を伝ってわたしの身体に響き渡る。
「しばらくの間、彼氏を頭の中から追い出して欲しいんだ。
ほんの少し、今だけでいいから――」
ふわりと優しく香る松原さんのにおいがしたのを合図に、どちらからともなく唇を重ねた。
何度も何度も、柔らかな感触を確かめ合った。
松原さんの唇は次第に耳から首筋へと移動して、暖かな温度の道筋ができていく。
「あっ……」
鎖骨へと静かに口づけた瞬間、思わず声を漏らしたわたしに、顔をあげて優しい笑顔を向けた。
「かわいいよ、璃音ちゃん。何もかも、すべて。
この腕の中から、離したくない――」
瞳を閉じてもう一度唇を重ねると、細い指先でわたしの白いブラウスの重ね合った部分を優しく外し始めた。