魅惑のくちびる

「ハイ、喜んで。午後は張り切って仕事しますね!」

話を切ろうと必死なわたしにどうやら気付いてなさそうな松原さんは、携帯を出しながらお店の予約を取ると言ってメモリを調べて楽しそうに話を続けた。

「璃音ちゃんが喜びそうな、デザートが美味しいって評判の店だよ。」

松原さんの顔を見ようと顔をあげたその時、わたしは思わず瞬間冷凍のように一気に硬直した。


――廊下を歩いていた雅城が、こっちを見ていたんだもん……。

たまたまかもしれないけど、それにしてもタイミングが悪すぎる。

何も、松原さんと話してる時じゃなくったっていいのに……。


ふいっとあちらを向いて行ってしまったから、松原さんは雅城が見ていたことには全く気付いていなかった。

どうせ、気付いたとしても、気まずい思いをするのはわたしだけだけど……。

その後の松原さんの楽しそうな話をする顔は、ミュートにしたテレビの画面を見ているようだった。

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