魅惑のくちびる
「オレのこと、名前で呼んでくれないかな。
……会社じゃもちろん、今まで通りでいいけど、二人でいるときだけは名前が嬉しいよ」
名前はもちろんのこと、わたしは敬語で喋り続けていた。
松原さんとの関係に踏ん切りが付かないからなのか、それ以外の理由なのかはよくわからない。
「彼氏との関係は、璃音ちゃんが決めること。
でも、こうしてオレとの時間を持ってくれてることってさ、オレの勘違いじゃなければ、少なからずオレへの好意を持ってるって思っていいよね?」
蹴った小石の転がる音が、静まりかえった通路に響き渡る。
「璃音ちゃんのよりどころになれるのなら、たとえ今はわずかな時間だとしても、オレとの時間を楽しんで欲しい。
でも、一緒にいる時間が増えていく間に、必ずオレがいいって思わせるよ。」