魅惑のくちびる
わたしはいつもいつも、決断に時間がかかりすぎる。
そうしていくつも大事なことを決めかねたり、時間がかかった割に間違った選択をすることが多い。
今もやっぱり、松原さんが言葉を発している言葉を聞きながら、雅城とのことが頭に浮かんでは消えていた。
意気地なし……? 優柔不断……?
思い出を捨てきれないのは、未練がましいから……?
様々な誘惑にまた負けそうになったけど、雅城に投げかけられた辛い仕打ちや悲しい言葉を思い出すと――
もう、後ろを向いたらいけないと強く思った。
「わたしは、彼にはもう別れを告げられた身ですから。
松原さん……あ、えっと……瞬(しゅん)との時間、いっぱい楽しみたい……」
名前で呼ぼうとすると、自然に敬語も解かれて二人の距離がぐっと縮まる。
わたしの手を握りしめた力が、少しだけ強くなった気がした。