魅惑のくちびる
17:灯台もと暗し
お花見をした公園の桜の木は、すっかり黄緑の服に衣替えをしていた。
対照的に地面には散り落ちた花びらが、薄紅色から少し変色した姿で敷き詰められているのが目に入り、少し物悲しく写る。
……どうもこのごろは、事あるごとにわたしの気持ちを桜たちに重ねてしまうみたいだ。
しがみつくように枝に残っていた花びらたちも、今ではほとんど残らずその手を離してしまっている。
綺麗に咲きほこっていた満開の桜の姿を思い出すと、目の前の光景はあまりにせつない。
「ほら、見て。
ここ、昼はあんなところまで見えるんだね」
ぽかぽか陽気に誘われて、今日はコンビニで食料を買い込んでの公園ランチに決定した。
会社から近いくせに、こんな風にランチをとる事は今まで滅多になかったことに気付く。
広く見渡せる高台へと足を運ぶと、随分遠くの工場地帯の煙突まで見える。
海原とは行かないけれど、わずかに広がる水色のスペースが目の端に入ると、思わず興奮した。