魅惑のくちびる
わたしが景色に見とれている間に、瞬はすでに二つ入ったサンドイッチを平らげてしまった。
袋の中には、パンがあと2つとおにぎりが1つとマンゴーゼリーが入っている。
こんなに食べてよく太らないなぁと、瞬の細めの身体を見るたびに羨ましく思ってしまう。
サツマイモの甘みがふんわりと口に広がると、それだけでもう幸せな気分になるのに、こんな見晴らしの良い景色と、まさか海まで見えるとは……なんて素敵なランチなんだろう。
「今までここを知らなかったのが、すごく損した気分。
もったいないなぁ。」
おにぎりのフィルムをくるくる丸めながら瞬の方を何気なく見ると、もうすでにパンを1つ食べ終えている。
口の中にもごもごさせていたものをスパークリングミネラルウォーターでのどを鳴らして流し込むと、紙おしぼりで口を拭いた。
「たとえいいものでも、目の前にあるものほど気付かないものさ。
この景色もそうだし、オレのことだってそうだろう?」
冗談を言って照れるときの瞬は、目を細めて静かに笑う。
わたしは笑いながらそうだねって一言だけ言うと、瞬はわずかに顔を赤らめて笑い、更に目が無くなった。