魅惑のくちびる
でもそろそろ、潮時。
女は愛される方がいいんだって誰かが言っていた。
こんなにも、わたしを思ってくれる瞬に、なにもかも忘れて身を預けてしまえばいい――。
ずっと遠くに並ぶ、赤と白の縞の煙突からは、もくもくと大きな煙がたなびいていた。
雅城といたら見られなかった景色を、今こうして目に映し出せているのは瞬と一緒にいるから。
これからもきっと、たくさんのことを一緒に経験していくんだね。
目を閉じて、青い空に向かって大きく深呼吸したら、すぅっとモヤモヤが身体の中から出て行った気がした。
「瞬。……わたしたち、ちゃんとつきあおうか?」
瞬はわたしの顔を見たまま、おにぎりの最後の一口をぱくっと放り込んだ。
何度か咀嚼して、飲み込みながらペットボトルのふたをひねる。
「オレは嬉しいけど。彼氏はどうするの?」
プシュー、と派手に音を立ててはじけている泡が落ち着くのを待って、一気に飲み干した。