魅惑のくちびる
わたしは少しだけ痛んだ胸の痛みに気付かないふりをした。
「連絡も一切来ないし、もう、別れたようなものよ。
わたしね、瞬とこれからたくさんの時間を過ごしたいって思ったの。」
静かにわたしの目を見つめる瞬の顔が、少しだけ悲しそうな顔に見えたのは、たぶん気のせいではない。
動きかけた口元は何か言いたげだったけど、言葉には出さないまま、ゆっくりと顔を近づけて口づけた。
「……わかった。
璃音がオレを選んでくれたことに、精一杯応えたいよ。
いっぱい、楽しい時間を過ごそうな!」
両手でわたしの頬を挟むと、まぶしいくらいの笑顔を見せた。
この人なら、わたしを悲しませたり困らせたりなんてしないだろう。
そういえば、出かけるのが好きだと言っていたっけ。
たくさんいろんなところに連れて行って、楽しませてくれるんだろうな。
思いを馳せるほど、自然にこれからの二人の将来に期待がこみ上げてくる。
弱いわたしを身体の中からすっかり追い出すと、心の中にさわやかな風が吹き込んできた。