魅惑のくちびる
「嘘って……何ですか?」
「もう白々しい、松原さんのことよ!
これ以上は、あたしに言わせなくてもわかるでしょう?
やっぱりつき合ってるんじゃなーい!
すっかり璃音ちゃんにだまされちゃったわよ。」
大げさにため息をつく振りをすると、大きく口を開けて笑って見せた。
「ホント水くさいんだもん。
別に隠さなくたっていいじゃない。……やっぱり噂って、本当のことが多いよねぇ」
「噂って……こないだ言ってた給湯室の話ですか?」
梶原さんからそれを聞いた限りでは、つき合っていると断言するには少し弱い噂な気がして、妙な胸騒ぎがする。
「あら、こういうのって当事者の耳には入らないものなのね。
……よく考えればそっか。こうしてあたしみたいに直接問い質さない限り、噂話そのものを広めるわけないよね。
内容は単純よ、松原さんと璃音ちゃんがつき合ってるって。
――魅惑のくちびるを射止めた罪は重いわね、たぶん。」