魅惑のくちびる

楽しそうに話す梶原さんを見つめながら、頭の中でぼんやりと考えていた。

一体、こういうのって、いつ誰が広めるんだろう。

給湯室の姿を誰かに見られていたくらいで、ここまで話が発展するとは思えない。


でも……まぁ、いっか。


これからはあながち嘘ではないわけだし。

それに……この噂が流れる中、わたしが顔を合わせたくない人は、幸いにも部屋が違うところで働いている。

意識すれば、うまく避けることだってできるだろうから。


近くで、わたしと梶原さんの話を聞いていたのか、広瀬くんが少し曇った顔をして口を開いた。


「璃音さん……松原さんと本当につき合ってるんっすか?」


そんなことを聞かれても、なんて答えたらいいのか困ってしまう。

わたしたち以外の周りは皆、自分のデスク近くのダストボックスを綺麗にしたり、ファイルを片づけたりと慌ただしくしているのを見ながら、一生懸命頭の中で答えを探していた。

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