魅惑のくちびる
「あら広瀬、璃音ちゃんのこと好きなの?
残念ながら、広瀬がいくらいいやつだとしても、松原さんが相手じゃさすがにかなわないよね。」
きつく束ねていた髪をようやくほどいて、梶原さんは広瀬くんの肩をつついた。
「ち……違うっすよ! そんなんじゃないっすけど……。
ただ、本当なのかなって、それだけが気になったっていうか……。」
広瀬くんの質問の意図はよくわからないけれど、わたしはとりあえず当たり障りのない答えを出した。
「ご想像におまかせします、ってとこかな」
台詞と一緒に笑顔を向けたけど、広瀬くんの顔は曇ったままだ。
いつもみたいに笑った顔は一切消え、もしかしたら広瀬くんのこんな顔は、一度も見たことがないかもしれない。