魅惑のくちびる
「広瀬ってば! もう、そんなに落ち込まないでよ。あたしで良かったらいつでもあいてるよ!」
冗談めかして笑わせたつもりだったと思うけれど、それどころかますます場が盛り下がってしまい、梶原さんは人差し指で頭を掻いた。
「すみません……」
肩を落とした広瀬くんはくるりと振り返ると、段ボールを片づけに倉庫へと向かって行った。
「何あいつ。変なの。
……でもさ、広瀬みたいに落ち込むやつ、いっぱいいると思うよ。
誰しも一度は、その魅惑のくちびるに触れてみたいと思ってるはずだもん……」
少し目を閉じて、うっとりした顔を作っている梶原さんの顔は本当に色っぽい。
わたしなんかよりもよっぽど触れてみたい対象だよ。