魅惑のくちびる
18:甘く、苦い時間
「きゃぁ!やっぱりまだ冷たいよ!」
波打ち際を、二つの足跡が点々と続いている。
寄せては返す波を、子供のようにむきになって瞬が追いかける横で、わたしは裸足で砂を掘り返しては踏みつける作業を機械のように繰り返していた。
5月を過ぎたばかりの海の水は、想像はしていたものの、足をつけるにはまだ早く感じる。
曇っているからやめようよ、と制止してみたけど、すでに靴下をぬいで海へ向かう瞬が振り向いて戻ってくることはなかった。
それどころか、わたしにも同じようにしろと促すんだ。
「璃音、海好きだろう?」
……そりゃぁ好きだけど……ものすごく寒がりなわたしは、海水の温度を想像しただけですでに鳥肌が立った。