魅惑のくちびる
それを見て、にやりと口角の端を引き上げた瞬の顔は、何かいたずらをたくらんだ子供のような悪い笑顔になった。
「……!ちょ……瞬……?」
急に視点が90度回転して、思わず声が上ずる。
瞬はわたしをひょいっと抱きかかえると急に走り出し、海へ向かって行った。
――きっと、わたしを怖がらせようって魂胆に違いない……。
「きゃー!」
瞬の思うツボなのが悔しいけれど、やっぱり悲鳴を上げずにいられなかった。
「アハハ。璃音は大げさだなぁ。
ちょっと、からかっただけじゃん。」
走るのは止めたけれど、わたしは手の中に抱きかかえられたままだ。
……誰もいない砂浜だとは言え、外でこんな格好はやっぱり気が気じゃない。