魅惑のくちびる
「絶対に失敗しない自信あったんだけどな。
オレも悲しいことに、確実に歳をとって行ってるって実感してちょっと悲しいよ。」
ずぶぬれの身体をタオルで簡単に拭いただけでは元のような乾燥した衣服に戻ってくれるはずもなく、仕方なくコンビニのビニール袋をシートに敷いて座り、予定変更の帰宅となった。
「海は見ているだけでも十分癒されるよ。」
……このパーカー、お気に入りなのにな。
砂で薄汚れ、わずかに潮の香りがするのが少し気になって気分が沈んだ。
買ったばかりのピンクのハンチングももちろんずぶぬれになってさらにへこむ。
日々増えてゆく瞬とのデートの時間が楽しくて仕方がない。
瞬が必ず、どこか一つでも褒めてくれるのがくすぐったいけれど嬉しくて。
頑張っておめかししている自分を戒めるかのような仕打ちに、考えれば考えるほどにどんどんテンションが下がっていくのがわかった。
「ごめん。せっかくの格好が台無しになっちゃったな……」
わたしが落ち込んでいるとでも思ったのか、瞬はまじめな顔を作り直して申し訳なさそうに謝った。