魅惑のくちびる
瞬との時間には、何も不満などない。
容姿も、性格も、エスコートも、考え方も。
アイボリーのタオルケットにくるまって語らうこの時間も、わたしにはとても心地よい時間だ。
雅城と、きちんと話をつけて終われていないことが唯一の気がかりではあった。
でも結果的にこれで良かったんだ……って、自分の選択に自信を持てるように何度も何度も言い聞かせた。
「オレさ、大学出て本当は別な会社の就職試験を受けたんだ」
何度目かのくちびるの往復が終わった頃、瞬はぼんやりと何かを思うような顔つきで口を開いた。
「本当にそこに行きたかったからさ、落ちた時は相当ショックでね。
なんでオレは受からなかったんだろうって自己嫌悪がすごかったよ。」
瞬はパーフェクトな人だと思っていた。
だけど、見えないところにそんな挫折があったなんて、人間見た目だけでは本当にわからないものだ。
そういえば、今まで恋が叶ったことがないという話もそれと同じ。
到底信じられない話ではあるけれど、でも誰も完璧じゃないんだと思うと、少しほっとするような変な安心感をも感じた。