魅惑のくちびる
20:ほぐれた糸
「そんなオレの気持ちに気付いたのは、田上じゃなくて北野だったよ。」
薄暗さに目が慣れてくると、瞬の表情が見えるようになった。
遠くを見つめながら、時々強く目をつぶっている姿は、痛みを堪えているようにも見える。
「ある時、会社の帰りに、珍しく二人で酒を飲まないかって誘われたんだ。
北野の鋭い勘なんて想像もしていなかったオレは、単純に男同士で仕事の話でもするのかと思ってさ。
2杯目の生を注文した頃、突然に北野が切り出してきた。
『お前、田上のこと好きだろう?』ってね。」
瞬の驚く顔が頭に浮かぶ。
雅城はきっと、瞬の気持ちに気付いて嫉妬し始めていたに違いない。
相づちを打つ程度で余計な言葉を挟むことなく、わたしはただただ黙って瞬の話に聞き入っていた。