魅惑のくちびる
雅城は、田上さんと別れてすぐにわたしと付き合うことになったことがなんとなく気が引けるって、ずっと自分を責め続けていた。
反対にわたしは、本当に本当に嬉しかった。
だって、憧れの人が彼氏なんだよ? 誰だって嬉しいに決まってる。
でも、雅城は罪悪感が消えないからって言って、しばらくわたし達の間柄は誰にも言わないでおいてと口止めされた。
元々、わたしもあまりプライベートを語らないから、当然この件は誰にも言うこともなかったけれど。
特に問題もなく、順調に交際を続けていたわたしたちだけど、去年の4月、突然の雅城の異動話がおそらく初めての事件だった。
社内では全く姿を見ることもなくなったけど、それでもなんとかできる限り時間を作っては会うようにしていた。
だけど、お互いが寂しさに耐えられなくなり、それから2ヵ月後に同棲を始めたのだった。
田上さんがどういう人なのか、未だにわたしは知らない。
でも、心が離れた理由かもしれない雅城の性格を、一緒に生活するようになってから一つだけ見つけてしまった。